![]() |
your name 「君の名は。」 |
--
帰国の日が来た。荷物は大きなトランクケースが3つもあった。航空便で送るように提案していたが、お金がかかるからと頑固だった。
仕方なく、しろくまが両手にスーツケースを転がして出発することになった。患者さんの歩きはマイペースでゆっくりしていて、電車に間に合うかひやひやした。
なんとか成田エクスプレスに乗りこんだが、なかなか椅子に座ろうとしない。Give me a piece of paper?何だろうと思いながら紙切れを一枚渡すと、それを椅子の上に敷いてから漸く着座した。
自閉的な病棟生活では顕在化してこなかった強迫症状が現れているのだろうと察した。そのようなしろくまの懸念をよそ目に、本人は停車駅毎に車外の風景をスマホで撮影していた。
成田空港に到着した。チェックインカウンターまで辿り着くと、その列に並んでいる最中に突然、スーツケースを広げ始めた。中からアルコールの入った小さなスプレー瓶を取り出した。そして、スーツケースの取手部分を入念に噴霧してからスーツケースを預けた。
航空会社の係員が怪訝そうに「飛行機に乗っても大丈夫でしょうか」と尋ねてきた。ここまできたら「大丈夫と判断しています」と言い切る他なかった。
一抹の不安を残しながら、いよいよ保安検査場で別れの際となった。ここから先は乗客しか進入できない。自分の役割は終わったと安堵感が生じ始めた一方で、彼女にとって自分は「空港までついてきた暇人とぐらいにしか思われていないだろう」と少し虚しさを感じていた。
彼女は行ってしまった。しかし、数歩進んで引き返してきた。そして思いがけない言葉を口にした。
Thank you very much.
しろくまは呆気に取られていると、もう一度、
Thank you very much.
And what's your name?
と名前を尋ね、握手を求めてきた。真に感謝しているような表情であった。
しろくまは自分の名前を告げて、しっかりと手を握り返した。
関連ページ・記事
ブログランキング参加中です
読んで頂きありがとうございます。
↓ クリックご協力お願いします。
ご感想・ご質問も受付中です
↓ 「コメントを投稿」よりお気軽にどうぞ
4 件のコメント:
精神科医になって夢に関する研究をしてみたいと思っている、元引きこもりの通信制高校に通う高校二年生です。
いつもブログを参考にさせてもらっています。ありがとうございます。
質問をさせてください。
現在自分は、勉強をしていくうちになんとか自分が一番気持ちよく勉強できる方法を確立しつつあります。
それは、「担当の先生と一緒に参考書を選び、それをやりこむことによって勉強を進めていく 」という方法です。
講師が行う授業を聴いて内容を理解し、自分のものにすることが苦手なためです。
医学部に入ってからや医者になってから、上記のような勉強法でやってきた自分はついていくことができるのでしょうか。
学習の対象を、教科書や専門書などのその時に必要な知識がまとめられているものに移行することで対応できるのでしょうか。
回答の方、よろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
ひきこもりを乗り越えて精神科医を目指して勉強中なのですね。応援しています。
明日、ゆっくりとお返事します。少々お待ちください。
しろくま
お待たせしました。
自分が一番気持ちよく勉強できる方法を確立しつつあるというのは素晴らしいことですね。
性格が多種多様なように勉強法もひとそれぞれで構わないと思います。
参考書を自力で読み進めるという勉強法は医学生や医師になるに向けてむしろ身につけたい方法だと思います。塾や予備校が充実しているのは高校生までですからね。
但し、漫然と独りで勉強していて留年していった知人を何人もみてきました。
自力で学習するポイントは忘れないでほしいと思います。それは「1.何のために、2.何を勉強するか」具体的に考えて取り組むことだと思います。
例えば、大学を目指す高校生ならば、1.受験する大学の試験問題で自由英作文が出るから、2.基本例文をたくさん暗記できる参考書に取り組もうとか
例えば、分子生物学の学科試験に通りたい医学生ならば、1.過去問でワトソン・クリックの研究成果が問われているから、2.〇〇という本の第〇章をまとめようとか、
例えば、初めて救急外来を任される研修医ならば、1.腹痛患者が多いから、2.腹痛の症候学を復習しようとか
目的意識を持って勉強することが大切です。
特に、医学書は一冊で何百ページもありますから、やみくもに1ページ目から読み始めるとどうしても挫折してしまいます。
自分で必要とする知識に気づいてそれを補う目的意識をもった勉強法が求められているのです。
そういった勉強法を身につけるきっかけとして大学受験は良い機会となるでしょう。
但し、自身で考えても必要とする知識が見えてこないときは、あなたが今、担当の先生にアドバイスを求めているように周囲から助言をもらう柔軟性が大切です。
それは医学生、医師になっても同じで、同級生や先輩に素直に教えを請う謙虚さは忘れないでほしいです。
いつかあなたが精神科医となり、ともに働ける日を楽しみにしています。
しろくま
ご回答ありがとうございます。
社会から離れて一人でいる時間が多いので、自分と周りの違いが気になってしまっていました。
しかし、具体的な例をたくさん挙げてくださったおかげで医学生として、医者として過ごす将来の透明度が増し、
将来に関する不安が軽減されました。ありがとうございます。
まずは志望校に合格しないと何も始まらないので、受験勉強を優先して取り組みたいと思います。
お体に気をつけてお過ごしください。これからもブログの更新を楽しみにしています。
コメントを投稿